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内部分裂をせまる「文化闘争」? - アメリカ中間選挙に見る「神々の闘争」のゆくえ 

2006年度 中間選挙の結果(下院)

Parties Seats Popular Vote
2004 2006 +/- Strength Vote % Change
Democratic Party 202 ≥232 +30 - - - -
Republican Party 232 ≥198 -29 - - - -
Independent 1 0 -1 - - - -
Other parties 0 0 0 - - - -
Undecided 5

今年11月7日に行われたアメリカ合衆国の中間選挙において結果的に民主党が上院・下院共に躍進することになった。アメリカの中間選挙は二年毎に行われ、上院は100議席の1/3である33議席、下院は全席の435席が一斉に改選される。大統領選挙が4年に一度づつ行われるのであるから、その間に実行される中間選挙は現職大統領の政策を国民がどう評価しているのか、その評価を如実に反映していると見て良いだろう。

上の中間選挙の結果からも分かるとおり、2004年度では下院において共和党が民主党とやや拮抗しつつ、若干議席は勝っていた。しかし今回の選挙においては民主党が33議席増となり、ブッシュ政権に対する国民の失望が見て取れる。しかし政党の内部において投票人が支持する争点は一枚岩ではない。

ピューリサーチセンターの研究報告の一つにこんな報告があった。「民主党と共和党は違う現実を見ている」(Democrats and Republicans See Different Realities)。つまり、今回の選挙ではある一つの定まった争点があるわけではなく、民主党へ投票した人と共和党へ投票した人はそれぞれ違った争点をもっていたというのである。

国内経済について共和党に投票した70%の人々は「うまくいっている」と考えている。しかし一方、民主党に投票した74%の人々は経済は「現状維持かよくない」と答えている。イラクについて共和党に投票した61%の人々は「少なからずよくやっている」とブッシュを鼓舞する一方、民主党に投票した81%の人々はそう捉えていない。イラク問題は民主党にとってブッシュ政権を攻撃する一番のホットイシューであるため、やはり投票者もそのことを意識して投票した人が多かった。

しかし今回の中間選挙で特筆すべきことは1994年中間選挙より続いてきた「文化闘争」が新たな局面にはいった感があるということである。「文化闘争」とは例えば「妊娠中絶」の是非をめぐる問題、再生医療の鍵となる※1「ES細胞(胚性幹細胞)」の是非をめぐる問題、「伝統的家族価値」など、経済問題のように「量」では解決できない「質」をめぐる闘争である。これはmore or less(もう少し多いか・少ないか)という問題ではなく、either or (あれか、それか)という問題であり、マックス・ウェーバーはこれを「神々の闘争」と呼んだ。すなわち決着に向けて妥協が非常に成立しにくいという性質をもっているのである。

投票者のホットイシューとしての文化闘争の側面は今回の選挙においてはあまり高い順位を占めていなかった。投票者の主な関心はイラク問題や経済問題などであった。しかし「あれかそれか」という文化闘争の問題が政党の内部分裂を引き起こしていることも出口調査から見て取れるのだ。

今回の中間選挙でそれが明白になったのは「ES細胞」と「ゲイ・レズビアンの婚約」を巡る問題である。まずES細胞を再生医療として使用することについて、民主党内部では賛成が66%、反対が19%、共和党は賛成が39%、反対が49%となっている。ES細胞の是非は民主党内部においては賛成が過半数以上であるのに対し、共和党内部は真っ二つに割れているのだ。

次に「ゲイ・レズビアンの婚約」を容認するかどうかという争点であるが、共和党内部では反対が75%、賛成が16%とはっきりしているのに対し、民主党では賛成44%、反対42%と割れている。

従って、民主党は「ゲイ・レズビアンの婚約」の争点、共和党は「ES細胞」の争点を巡って各党に投票した人々はそれぞれ違う認識を持っているのである。すなわち、これらの争点が各党の票田を先鋭にする文化的争点であり、各政党(投票者)が包摂する矛盾であると考えられる。

アメリカ合衆国は文化的争点を常に対外問題に置き換えて、党の綱領に入れることをなかなかしてこなかった。文化的争点が先鋭になればなるほど票田が割れてしまうからである。それがようやく先鋭になりはじめたのは1994年中間選挙であって、共和党がいわゆる宗教右派を取り込み、文化争点を利用して南部諸州を転向させたころから顕著となった。

確かに今回の中間選挙のホットイシューはイラク占領に対する国民の失望であった。しかし仮に民主党のヒラリーが大統領となり、イラクからアメリカ軍が撤退した折、あるいは国民の関心がイラクから離れた折、彼らの目が再び国内の「道徳的価値」に向けられる可能性がこれから十分にある。各政党の投票者が抱える矛盾は上述した通りである。2008年の大統領選挙において文化的矛盾が一気に噴出さないか。これから見ものである。

イオ

※1 マイケル・J・フォックスは今回の中間選挙でES細胞擁護の立場からしきりに民主党を応援していた。そのCMがこちら。
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人間が広告になるとき。WEB2.0時代のバイラルネットワーク 

今日は寝られないのでつらつらくだらないことでも書いてやろうかと思う。



この動画を見てはっきりして寒気がした。
ブログに企業から提供されたモノを掲載するという条件で、映画の試写会に招待されたり、試供品をもらっている女子大生達の話だ。彼女たちは企業から提供された話題を「そのまま」「無批判」にブログに掲載してゆく。

ここに「理性」は存在するのだろうか。いや、理性などという傲慢な考えはとっくのとうに「信仰」におきかえられ、今の時代、そんな高尚な呼び方はされていない。だがバイラルネットワークの利点は、個人がもつ「信仰」に存在する盲点を人間一人一人が検定することによってもたらされる。そうして「理性」らしきものが人々によって作られる。それを「似非理性」と呼び換えてもいいかもしれない。「似非」という言葉を使っているからといって卑屈になることは全くない。我々人間が天使である、と考えられていた時代はとっくに終わっている。むしろ人間は「向上した猿人類」なのであって、どうあがいても「理性」なんていう神の思考は手に入れることができない。
だから「理性」というよりも、「似非理性」と名づけたほうが我々には丁度良いのである。

さて話をもとにもどそう。肝心なことは、インターネットによって発展したバイラルネットワークが企業のトップダウン式マーケティングに駆逐されつつあるということだ。本来は一人一人がそのモノが良いのか悪いのかを検定し、良ければ等比級数的に流行るというのがバイラルネットワークであり、ロングテールの考え方である。

しかし、無批判に企業から提供されたモノをブログにアップし、いわばバイラルネットの「信用面」を逆手にとって、読者にそのモノが良いと信じさせてしまうことは、許されることではない。もっといえば彼女達は洗脳された企業スパイであり、民衆の裏切り者である。

「民衆の裏切り者」とは言葉がきつい。しかしこれは言いすぎではない。将来、企業のトップダウン式のマーケティング方法は信用をなくし、誰も見向きもしなくなるときがくるかもしれない。そうなったとき、バイラルネットワークに目をつけた企業にモノを斡旋された彼女達のような人間が多く現れることは想像に難くない。バイラルネットワークは人と人との信用の上に成り立っている。しかし、彼女達のような人間が多くなってくるとバイラルネットワークも破綻しかねない。我々に残された最後の「人間の絆」という砦を守らなければならないのではないか。私はそう思う。

イオ